野球。
世界中で人気と言えば嘘になるかもしれないが、少なくとも日本では人気のあるスポーツである。多くの人が観戦がメインで、周りを見渡せば野球部出身者がどの世代にも自然にいるだろう。
なぜか私は数年前から年1回程度、職場の人たちと草野球をすることとなった。やってみて思うのが、まあできない。当然ではあるが、できない。
投げれば距離が足りずにそのうえ逸れて、振れば当たらず、フライは捕れない。そんなものである。
しかし、周りの人たちは優しい。なぜならば、所詮お遊びなのである。なにより私は9-10人目である。人が揃わなければ、野球はできない。
上手い人が多少いたところで、人数が揃わなければ意味がないのである。なので、ふざけない限りは怒られないし、コツなども教えてくれる。そして、コツが分かると少し面白くなってくる。
フライは思いのほか、後ろに飛んでくる。投球の距離が足りなくても逸れるよりかはいい。ボール球は振らなくていい。
分からないことが少しだけ分かると、進歩した気分になれる。
今年度最後の草野球は、8月最終土曜である。
全体での練習は、一度しか行えなかった。繰り返すが、所詮お遊びで、そこまでのやる気は誰にもないのである。ただ、限られた個人練習なら、いつでもできる。個人で出来て、効用が高いのは打撃練習である。
打順は回ってくる。下位打線であっても何度かは。
そう思い、バッティングセンターに何度か赴いた。もちろん、実際の人の投球と機械での投球は異なる。しかし、ド素人にレベルの高い話をしても意味がないのである。
バットを振って球に当てて、球を前に飛ばす。今の私がバッティングセンターに行けば、その確率は上がるのである。
おそらくフォームは正しくない、情けない姿である。それでも何度か繰り返せば、少しずつ球に当てられるようになってくる。
そして、球に当てられるようになれば、次第にゴロでなく、しっかりと前に飛ばせるようになってくる。バットが球に当たることに喜びと驚きを覚えてはいけないのであることに気が付いてから、進歩が始まる。
当たることに喜べば、力が無意識に弱まってしまうのだ。だから、飛ばない。当たることを当然と思い、前に飛ばす意識があるから、最後までバットに力が乗るのである。
本番はヒットが打てるかもしれない。
最低限の自信がでてきた数日後、台風接近に伴う草野球の中止連絡が私のもとに届いた。
30歳の夏が終わった。