※注:前編からの続きです
・砂漠 伊坂幸太郎
伊坂幸太郎の本はエンタメし過ぎていて、娯楽本を認めたがらないのはダサいのは分かっているが、あまり認めたくはない。
しかし、エンタメしているのでとても面白い。
じっくりと難解な本を読むのもいいかもしれないが、スルスルと文字を読み進める読書体験も悪いわけじゃない。
「アヒルと鴨のコインロッカー」も好き。最近読んだ「逆ソクラテス」も良かった。
「砂漠」はだいぶ面白かったはずだけど、内容はあまり覚えていない。たしか派手な起承転結があるわけではないが、伊坂幸太郎らしい技巧をこらした物語だったはず。
青春っていいよね。
・ドグラ・マグラ 夢野久作
選書カルテでは、印象に残った本を〇、△、×で評価するが、唯一〇ではなく△をつけた。
読んで気が狂うというのは大げさではあるが、しかし、心地の良い本ではない。
しかし、古い本の割には案外読みやすい。しかし、読んだところで何がどう起きたのかは分からない。
チャカポコしている部分は流し読みした。
印象に残るという意味では間違いない本。
・カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ
本屋に「面白いです」ってポップ付きで積まれている本ってやっぱり面白いんだなと認めざるを得なかった本。ひねくれ者の私の敗北である。
アガサ・クリスティーへの尊敬と模倣に溢れた物語であるが、単なるオマージュで終わらないのが憎い。
古き良き探偵ものとしての完成度も高いし、それ以外の面白さも十二分にある。
なお、アガサの本は「そして誰もいなくなった」しか読んでいない。
いつかちゃんと古典ミステリーも読みたい。
・葉隠入門 三島由紀夫
職場の先輩が「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」と何度も言っていて、うるさいなと思いながらも興味を持ったので読んだ。なお、その人は葉隠れをまったく読んでいなかった。
江戸時代の武士の心得をまとめた本。
三島は、武士以外にも当てはまるようなことを書いて興味を惹かせては、武士にしか役に立たない教訓を記し、葉隠れは読者を突き放すといったことを記している。
ストイックな教訓だけはないので、使える部分だけ使いたい。
葉隠れに限るものではないだろうが、武士の心得にも関わらず、ギリシャ哲学、アメリカ自己啓発書などとも思考方法や美徳が被る箇所があって面白い。
点となる真理は存在しないだろうが、真理に近しいものは至る所に存在するのだろうと思う。
・虐殺機関 伊藤計劃
作品が少ないので、比較対象は「ハーモニー」のみ。メタルギアは読んでいない。
エッセイは読んでいないが、映画とかが好きな人だったらしい。
映画好きの作家らしく、良くも悪くも、なんというか余白がなく、みっちりとした作品。
文章描写が長い割に映像化の際に短いシーンが少ない感じか?
グロテスクな描写に抵抗がなく、重めの大作映画が好きならおすすめ。
場面の移り変わりとやるせない雰囲気も良い。
・夜のピクニック 恩田陸
軽めの名作もちゃんと好きなんですよ枠。
読んだのが結構、昔だからあまり覚えていない。けど、青春小説の傑作のはず。いろんな人の目線である高校行事が描かれていたはず。
ただ歩くだけの行事ではあるが、それに対して、個人個人の背景や思いがいろいろとあって、青春って酸いも甘いもあっていいなって感じの作品だったはず。
幼いころにテレビで、映画だかドラマだかの「六番目の小夜子」の一場面を見て以来、読みたいなと少し思っているけど、気持ちが弱すぎてその日はまだ来ていない。
・一九八四年 新訳版 (ハヤカワepi文庫) ジョージ・オーウェル
ディストピア小説の金字塔。
なんだかんだ言って面白い。けど、読みづらい。
古い小説だけあって、近未来感が古臭いが、しかし、近未来SF装置によって社会がどう変革されるかは的確に描写されている。コンピューターの普及の予測こそはできなかったが、合理化された人の変化の予測が優れている。
作られた流行歌を洗濯しながらうたう人の場面、ビールの量にケチをつける場面、ネズミの場面とかが好き。
良くなろうとしないほうが良いのだろう。
・ソクラテスの弁明(光文社古典新訳文庫) プラトン(納富信留訳)
ギリシャ哲学枠2。良い本だけど、入れる必要はなかった。
2000年以上前から、人間って愚かなのに賢いふりをしたいんだなって。
しかし、このソクラテスが身近にいたら間違いないうっとおしいから、この場面に私がいればソクラテス否定派だろう。今の日本で読むからソクラテスを肯定できる。
この本に限らず、哲学は生活に結びついた実践的なものが好き。哲学のための哲学は軽い読書には向かないし、興味がない。
・名称未設定ファイル 品田 遊 〇
オモコロライター枠。
技巧的で、軽妙で良い。
ネットを意識したものもあれば、古典SFを意識したものあり、表題通りごった煮の短編集として完成されている。
・タタール人の砂漠 ブッツァーティ 〇
面白く、つらい。
人生の余白が少しずつ削られていく、ぬったりとくる焦燥感。
取るべき行動がきっと分かっていたのに先延ばしにしてしまう、あるいは、決断を誤る。
何もないがゆえに、本来意味などないものを重大なものとして扱い、それに満足してしまう。
直接的な恐怖は与えない、大いなる希望はなくとも些細な希望はいくらでもある。
しかし、いよいよのときには、何もできない。
終わる。
・旅のラゴス 筒井康隆 〇
幻想的で面白い。
軽い気持ちで読めば良いと思う。
波乱万丈だが、教訓めいたものはあまり感じない。
場面ごとに短編のようになっているので読みやすい。
・山月記・李陵 他九篇 (多分岩波文庫のやつ)中島敦 〇
賢いと思われたい枠。
日本語って美しいんだなって思えます。
山月記以外も面白いので、ぜひ読むべき。
・(21冊目)魍魎の匣 京極夏彦
入れ忘れた。面白いけど長くて疲れるので、「姑獲鳥の夏」と「魍魎の匣」しか読んでいない。しかも分かっていながら、順番を逆に読んだ。
いつかシリーズをちゃんと読む。
なぜ魑魅魍魎ではなく魍魎なのか、なぜ箱ではなく箱なのか、民族学めいた考察を挟み、そして、それが事件解決への糸口となる。よくできた小説です。
しかし、トリックとかにいろいろと無理がある。けれども、無理のある箇所以外の完成度が高すぎて不満はなくなる。
推理ものとしての事件の経過や民俗学パート、推理パートもよいが、風景描写もよい。戦後すぐの、道がコンクリートで固められる前の雨の描写で、私は引き込まれた。
・(22冊目)べらぼうくん 万城目学
「悟浄出立」と迷ったけどこっち。「鴨川ホルモー」、「鹿男あをによし」も良い。
先に「悟浄出立」について。短編集。中島敦への尊敬の念がひしひしと伝わるし、題材も表現もよい。特にわが西遊記からの話の広げた表題作が好き。
「べらぼうくん」は気の抜けたエッセイ。
エンタメ重視の小説を書くことが多い万城目氏が、若いころから小説家デビューのときの時期について書いたエッセイだったはず。
力の抜けた話ではあるが、テンポよく進み、読んでいて心地よい。
・終わりに
軽い気持ちで書き始めたら、案外長くなり、また、途中でやる気がなくなったのもあり、書くのに時間がかかった。
一万円選書で選ばれた本レビューも年末までに出来たらいいね。
まだ、一冊も開いてすらいないけど!
ちゃんと本読まなきゃ。